特別対談 阿部守一×中村将臣


自己紹介

中村理事長(以下「中村」):阿部知事、本日は大変お忙しい中ありがとうございます。長野青年会議所理事長の中村と申します。阿部知事は青年会議所の活動についてはよくご存知かと思います。

 

阿部知事(以下「阿部」):はい。私の妻は青年会議所にも入っていましたので。

 

中村:ありがとうございます。

 

阿部:松山青年会議所、東京青年会議所にちょこっとだけ入って、長野青年会議所にもちょっとだけお邪魔していたと思います。

 

中村:ありがとうございます。

長野青年会議所は「明るい豊かな社会」の実現を目指し、県都であります長野市を中心にまちづくりに励んでいます。本年度は、日本青年会議所及び国連がイニシアチブを持って推進しているSDGsの17個の各ゴールに紐付けて事業を行い、青年会議所運動を推進させていただいております。

一つの例として、例年、青少年の育成事業を行っていますが、本年度は、SDGsのゴール1「貧困をなくそう」に紐付けて、貧困が生じる背景に踏み込み、子どもたちに「包摂性」を育んでもらい、貧困をなくすための活動などを行っています。

本年度の特色としては、今回の対談のテーマである「共生社会」を掲げて運動を推進しています。具体的には、スポーツを通じた「共生社会」の実現を目指し、春先には、障害を持った方と一緒にスポーツを行う事業を推進させていただきました。また、私たち長野青年会議所は、月に一度、青年会議所メンバーに向けて例会を開催していますが、本年9月には、公開例会として一般の方にもご参加頂きました。その9月公開例会では、アイススレッジホッケーの上原大祐選手を講師に招聘し「共生できる社会」についてご講演をいただきました。9月公開例会の中で触れさせていただいたのは、長野県が日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)と、「スポーツを通じた共生社会の創造に向けた連携・協力に関する協定」を締結するなど、障害の有無に拘わらず、スポーツを楽しめる環境作りを行い、全国へのモデルケースとして発信する意思を示していることや阿部知事自らキックオフイベントに参加するなど、積極的に活動を行っていることなどを発信しました。本日は、同じ取り組みを行う団体として、様々な観点から「共生社会」について話させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

阿部:よろしくお願いします。ありがとうございます。期待しています。


子どもの貧困問題について

中村:今回の対談テーマは「共生社会」ということで、長野青年会議所では経済的また身体的なハンディキャップを持っている方が「誰一人取り残さない社会」の実現に向けた取り組みを行っています。

急速な高齢化が進んだ現代において子どもは宝でありますし、子育て世代への手厚い支援を行うことは長野県の未来を左右するといっても過言ではないと考えています。本年度、私たち長野青年会議所は、貧困問題に着目し運動を推進していますが、非常に深刻な問題だと私は捉えています。経済的な困窮によって、幼少期に様々な経験をする機会を失ってしまう結果、自己肯定感や主体性が欠落してしまうことが多いといった調査もされています。自己肯定感や主体性が欠落した状態だと、何事においてもやらされているように感じることになり、そのような方が多い社会は健全ではないと言えます。先にお話ししたとおり、青少年育成事業で子どもの「包摂性」を育む運動を行っているのも、未来を担う子どもたちには、一人ひとりが人生の主役として生き生きとしてほしいという願いが込められています。

他にも長野青年会議所では、貧困世帯の多くを占める母子家庭について、より踏み込んだ支援策の提言や、近年海外で重視されるようになった就学前教育を地域の実情に合わせて拡充するための方策の提言などをすべきではないかと話し合っています。長野県として、経済的に苦しい状況にある家庭、特に、子どもの貧困について、4年前から積極的に取り組まれていると伺っております。阿部知事のこれまで取り組まれてきた成果と今後の展望や課題をお聞かせください。。

 

阿部:はい、ありがとうございます。長野県として平成26年に子育て支援戦略を策定し、その中で子どもたちの経済的不自由な状況を改善したいということで様々な取り組みを進めてきました。

例えば、ルートイングループの皆さんに寄付をいただいて、大学進学時における給付型の奨学金制度を作ったり、少子化対策につながるという観点で多子世帯への保育料(保育料は基本的には市町村が財政負担)を応援しようという取り組みを行ったりしました。また、子どもの医療費助成については、市町村の取り組みと長野県の取り組みがあり、他の県に比べると手厚い制度になってます。様々な議論がありましたが、償還払いではなく、現物給付化、つまり窓口で1レセプト辺り500円払えば良いという方式にしましたし、全ての市町村で中学校卒業までの入院費用も医療費助成の対象となっています。貧困問題とは外れてしまうかもしれませんが、所得制限無しで全ての子どもが安心して医療を受けられるようになったと思います。市町村によっては高校生まで対象にしているところもありますので、そういう意味では、長野県は子どもの医療費助成について非常に進んでいる県だと思っています。

子どもの貧困問題は、色々な側面があり、今、中村理事長が話したことは、現象面の対策だと思います。ただ、本来は、そもそも子どもの問題だけでなくて、社会的な格差をなくす取り組みをしっかりとやらなければならないと思っていますので、長野県としては、産業全体の新興、産業の生産性の向上ということを長野県経済産業政策の大きな柱にして取り組んでいます。この時代の転換期にあって、様々な産業がしっかり利益を上げられるような環境にしていかなければならないと思ってます。例えば、農林業のスマート化や製造業をはじめとする各産業におけるAIやIoTの活用の促進などの取り組みも始めていますし、新しい技術を積極的に導入するにあたってはIT人材が欠かせないので、経営者協会や長野経済連から「IT人材バレー構想」というものの提案を受けて、一緒に考えて、先日「IT人材バレー構想」をスタートさせました。

そもそも社会全体の豊かさを向上させると同時に、そのプロセスの中で格差をなくしていかなければなりませんが、行政としては、保育料助成とか、医療費助成とかそういうことを通じて所得の再分配をしっかりやっていかなければならないと思ってます。

もう一つ。中村理事長にお話し頂いたことが極めて重要だと思うんですけれども、行政がやれることは、所得の再分配を行うとか、制度や仕組を作り上げるとかになります。私が長野青年会議所の皆さんに期待するのは、もちろんお金で協力してもらうことも必要ですが、やはり子どもたちに色んな体験の機会を作ってもらうことだと考えています。子どもたちは経済的に豊かであればこしたことはないけれども、お金だけでは図ることができない価値が世の中には沢山あって、例えば、旅行したり、良い芸術作品に触れたり、キャンプを行ったり、色々な体験をすることが必要です。しかし、どうしても所得が少ない家庭の子どもはそういった経験をする機会が少なくなってしまいます。そのために長野県が財政的な側面で取り組むとすれば、長野青年会議所の皆さんにはそういう機会をどんどん作ってもらいたいと思います。経済的には恵まれていなくても色んな大人と触れ合ったり、色んな体験をしたりすることによって、子どもたち一人ひとりが未来を切り開いていく力につながるんじゃないかと思っています。


中村:ありがとうございます。私たち青年会議所メンバーは青年会議所を離れれば、一青年経済人として、社会活動、経済活動をさせて頂いています。今、知事からの話しにあった産業という部分について、私は非常に注目をしています。高度経済成長の頃と変わり、今は必要とされる産業と必要とされない産業があるのではないかと感じています。この必要とされる産業というものに、青年会議所はもっともっと注目して、力を注いでいかなければならないと感じています。そして、地方で活動を行っていく上では地元企業と連携、パートナーシップをもつことも必要だと感じます。私は警備会社の経営を行っていますが、県や市の入札では、どうしても他県の業者が強い側面があったりします。入札等においては、本社が長野県にあり地元に税金を納めている企業に加点をして、地元企業を活性化していただければと思います。、

 

阿部:県では加点してないのかな。

 

中村:最低価格が多少は設けられています。業種によってはそんな実情もあるのかなと思います。

子どもたちの健全育成については、今まで様々な事業を推進してきています。本年度の取り組みの中で感じたことは、子どもたちは非常に純粋で貧困に気づいていない部分もあるということです。幼少期の経験は心を豊にするためにも非常に重要なことだと考えています。今年は、保護者である親の皆さんに県や市の制度の話しをさせて頂きました。また、親の皆さんが、そのような支援制度がどれだけ手厚いか知っているのかを調査、研究しました。知らない方が非常に多いなというのが率直な感想です。私たちとしては、そのような支援制度の認知度をもっと高めていくことが今の課題ではないかと考えていて、長野市にはこの点を含めて7つほどの提言を行うことを考えています。青年会議所としての役割として、子どもたちに色々な経験をしてもらう事業を開催することはできますが、社会のシステムの整備だったり、法的な制度を設計したりすることは直接的にはできません。ですから、私たち青年会議所は、例えば、税金をどの分野にどのくらい分配するのかなどについて、市民・県民の声を行政に届けていくなどして、システムの整備や制度設計に寄与していきたいと考えています。それが、行政と市民・県民との中間に位置する団体である青年会議所の役割の一つと考えています。

 

阿部:行政のアピールが下手というのもあるのですが、色々と行っている施策について、住民の方になかなかうまく伝わっていなかったり、本当の意味をなかなか理解して頂けなかったりすることがあります。特に福祉の政策については、国の制度、県の制度、市町村の制度があるので、とても複雑であり全てを理解している人はいないのではないかと思います。これらの制度には様々な課題があり、まだまだ改善したいことがあります。青年会議所の皆さまには世の中を動かしてもらう立場になってほしいと考えていて、これらの課題や改善すべき点を研究・分析して頂いて、直接的にメリットを受ける人達だけではなく、多くの市民と一緒になって、これらの福祉制度を良くするための提案をして頂きたいと思います。

 

中村:私たち青年会議所は、単年度制を採っており、毎年同じ事業を行うということはしていません。同じ事業を繰り返し行うことも大事なのですが、今の社会や経済において必要なことを、パイオニアとして地域社会に発信し、市民の方たちに私たちの行う事業に触れて頂き、会社や市民の方たちが今の地域や社会のためにできることに取り組もうという意識変革(ポジティブチェンジ)をしてもらう一助となりたい、という想いがあるからです。

 

阿部:SDGsの「誰一人取り残さない」社会を作ろうという点について、長野県と長野青年会議所は想いを共有していると思っています。長野青年会議所の皆さんには、青年経済人の立場で、財源をどう活用していくのか、お金の配分の優先順位について考えて頂きたいです。例えば、子どもの医療費については一部負担金をなくしてもいいのではないか、という意見もあります。一部負担金をなくすことで億単位のお金が浮きますので子どもが通う学校の環境を整えるといったこともできることになるわけです。あれもこれもはできませんので、長野青年会議所という団体を通して、何に重きを置いて、限られた財源を活用するのか、という議論を先導して頂きたいです。

 

中村:私たち長野青年会議所が、税金の配分について踏み込んで発信することは社会にとってもインパクトのあることだと思います。是非、考えていきたいです。

 

阿部:行政は県民のコンセンサスの平均値とずれたことは言えないところもあります。長野青年会議所の皆さんには行政ができないことを期待しています。



障がいの有無に関係なく誰もが楽しめる社会について

中村:次に、長野県は昨年6月に日本財団パラリンピックサポートセンターと「スポーツを通じた共生社会の創造に向けた連携・協力に関する協定」を締結しています。これは、冬季オリンピック・パラリンピックの開催地である長野県は、誰もがスポーツを楽しむためのモデルとして発信していかねばならない、という気持ちがあるのだと感じていますが、そのような発信をするにあたって、2027年に開催予定の全国障害者スポーツ大会は、必ず成功させなくてはなりません。

長野青年会議所でも、スポーツを通じた相互理解の実現のために、障害者スポーツの裾野を広げるための事業を行っています。障害者スポーツというものは、障害者スポーツに理解や興味がある方でも「行うものではなく観るものだ」という考えが根強くあり、障害者スポーツとの間に距離が生じてしまい、普及の際の障壁となっています。そのような状況を打破すべく、障害者スポーツに興味を持ってもらう活動を行うと同時に全員参加型の企画を考えています。具体的には、誰もが参加できる新たな障害者スポーツを生み出すことや、学校授業の一環として障害者スポーツを取り入れることなどが提案されています。アメリカなどでは健常者も障害者スポーツに取り組んでおり、日本とは障害者スポーツに対する距離感が違います。障害者スポーツの裾野を広げるという目標の実現のためにはより大きな規模で行う必要があると考えていますが、誰もがスポーツを楽しむことができるという発信を行う長野県の現在の取り組み、そして今後の展望について、教えていただけますでしょうか。

 

阿部:今の話のとおり、長野県は冬季オリンピック・パラリンピックを開催した県であります。スペシャルオリンピックス世界大会を2005年に開催しましたので、そういった意味でも障害者スポーツに精力的に取り組んできました。スポーツだけの話ではありませんが、現在の世界の状況を鑑みると国同士が自国や自分を優先するという分断の傾向が見られ、そうした分断は最終的には決してメリットを生まないものだと思います。戦後、日本が復興したのは、焼け野原でみんなが同じように貧しくて、同じような状況で協力し支え合いながら進んできたからです。子どもの貧困問題、障害者の方との関係性、LGBTの方との関係性などについては、それぞれの多様性を尊重して温かく包み込んでいけるような社会を目指していかないと社会全体が地盤沈下してしまうという危機感を持っています。そういった意味で障害者スポーツの推進は「共生社会」を作っていく上で、非常に重要な役割を持っているのではないでしょうか。2027年に開催予定の全国障害者スポーツ大会は、単に開催するだけではなく、その前後のプロセスが大切だと考えています。開催にあたって多くの人々が障害者スポーツに関わり、開催後も障害者の人々が生き生きとスポーツの分野だけでなく様々な分野で活躍していけるようにするという目標があります。

また、長野県は日本財団パラリンピックサポートセンターと協定を結びましたが、自治体が協定を結んだのは初めてのことです。長野県の今までの障害者スポーツとの関わりから意気込みをかってくれたのではないかと考えています。長野県では、既にボッチャを入口にして障害者の方と一緒にスポーツを楽しんで頂けるようにボッチャプロジェクトをスタートさせていて、「パラウェーブNAGANOカップ」というボッチャ競技大会を開催しています。地区大会を11月から12月まで開催し、2月11日に県大会を開催します。障害がある人もない人も参加できるので、障害者スポーツの裾野が広がるように長野青年会議所の皆さまにも参加・協力して頂きたいです。

 

中村:ただいまの内容には共感できるところがほとんどです。私も昨年8月頃に、長野青年会議所の理事長として方針を作成いたしましたが、そのルーツとなったものが、実は1998年に開催された長野オリンピック・パラリンピックなんです。それまでは、パラリンピックスポーツは新聞の社会面に掲載されていて、オリンピックスポーツは新聞のスポーツ面に掲載されていたのですが、長野オリンピック・パラリンピックを契機にオリンピックスポーツ・パラリンピックスポーツ両方ともスポーツ面に掲載されるようになりました。そこで私は、「共生社会」の土壌は長野にあるんじゃないかと感じたわけです。

先ほどの知事の話にあったとおり、長野県が障害者スポーツに関する取り組みを全国に先駆けて行っていることは非常に素晴らしいことだと思います。私たち長野青年会議所も先ず入口を知っていただくことが非常に重要だと考えていて、冒頭に話したとおり様々な運動を推進しています。その中で非常に強く感じたことは、入口を知っていただいた後の次のステップとして、「心のバリア」を取り除いていかなければならないと考えています。例えば、車いすバスケットを行うにあたって体育館が全然レンタルできないといった課題が長野に限らず東京でも非常に多いようで、日本では体育館の使用もままなりません。これは車いすバスケットを行うと体育館の床に傷がつくからとか、安全面が保証できないからとか、そういったことが理由のようですが、健常者と一緒という目線で考えると、体育館を作る時点で床の素材を考慮しなければならなかったわけですし、安全面については、健常者であっても事故が起こったり、怪我をしたりするわけです。健常者と障害者を分け隔てて考えることはあってはいけないと思います。

バリアフリーの設備であるスロープについても、高齢の方も急な階段を上るよりバリアフリーのスロープを歩いた方が楽だと思います。分け隔てをしないという発想で取り組んでいくことが大事なのではないかと、この1年間で学ばせて頂きました。「バリアフリー化」というのはハード面、ソフト面と様々あると思いますが、両者の「バリアフリー化」を進めていくことが最も重要だと思います。入口の部分とその次のステップの部分も見越して私たち青年会議所も運動を推進していますので、今後も様々な機会の中で対応なり、協力なりをさせていただければと考えていますのでよろしくお願いいたします。


阿部:はい。よろしくお願いいたします。

 

中村:ありがとうございます。

これまでは、2つのキーワード、「貧困と青少年の健全育成」と「共生社会を実現する上でのスポーツ」というのを切り口で話させていただきました。現実的な問題として、今、話させて頂いた身体的・経済的ハンディキャップの他に、様々な理由で社会や地域から孤立してしまう方がいらっしゃると思います。そして一度孤立してしまった方が再び社会や地域に復帰するというのは並大抵なことではないと思います。ダイバーシティという言葉もありますけれど、国籍、生活スタイル、宗教など異なりますが様々な多様性を受け入れながら、「誰一人取り残さない」未来を作り出すために長野県の進むべき方向について考えを教えていただければと思います。

 

阿部:そうですね。私は去年の選挙公約のメインテーマというか基本的な価値観として、「創造的」で「持続可能」な「共生社会」と要は3つ盛り込みました。「創造的」でクリエイティブな社会にしなければならない。「持続可能」でなければならない。それから共に支え合う「共生社会」でなければならない。この3つが基本的に今の任期中に頑張らなきゃいけないことで、本日の対談テーマの「共生社会」、みんな包み込むような社会を作るっていうのは、現在、非常に社会全体で強く求められている分野だと思っています。ただこれはすごく難しいと思っています。

今、長野県が正面から向き合って取り組んでいこうということを、「共生社会」の文脈でいけば、例えば、子どもの自殺対策があります。長野県は子どもの自殺率が高いので、私がプロジェクトチームを直接率いて、なんとか子どもの自殺を0にしたいと言ってるわけです。普通、0目標というのはなかなか実現困難なので0目標というのは立てませんが、私はやっぱり大人の自殺と違って子どもの自殺は明らかに社会の問題だと考えています。子どもが1人で生きているわけは絶対にないので、周りに大人が必ずいます。そういう意味で社会の問題であり、なんとか0にしたいと思っています。

それからこれも全国で初めての取り組みなのですが、引きこもりの実態調査を民生委員の皆さんの協力を得て行いました。引きこもりの皆さんはある意味自分の世界に閉じこもってしまっているので、まさに共生とは全く逆の形の存在になってしまっています。やはり引きこもりの方と社会・地域との繋がりをどれだけ作れるか、あるいは、まず引きこもりにならないようにするにはどうしたらいいかということを真剣に考えなければならないと思っています。

それから、例えば、保護司の方たちには犯罪に及んだ人たちをしっかりとサポートしていただいてますが、犯罪に及んだ人たちを社会の中でどう温かく迎えられるようにできるかという問題もあります。また、出入国管理法が改正されてこれから外国人の労働者もどんどん増えていく中で、単に労働力としてみると地域にまた色々な摩擦を生み問題が生じかねないとも思っています。これらの問題については、やはり一人ひとりが社会としてどう受け入れるかということが問われていると思います。先日、長野市に多文化共生相談センターを設置して15言語で相談対応を行うことができるようになりましたが、まだまだそれは入口で本当に外国人との「共生社会」を作ることは、相当な大問題だなと思っています。

そういう意味で「共生」と一言でいっても、冒頭にあった子どもの貧困の話から外国人との共生の話まで含めて非常に範囲が広いです。これは本当に市町村の皆さんや県民の皆さんの理解と協力なしには決して進まないものとなります。単に何か予算をつければいいとか、ルールを作ったりすれば「共生社会」になるってことは絶対にありません。先ほど私が選挙公約の一つの要素として話させていたただいた創造性、クリエイティブな社会を作るという関係では、例えば、AIとかIoTとかロボットの活用などをこれからどんどん広げていかなければならないし、広がっていくと思いますが、この「共生社会」を作るという分野は絶対に自動化できません。人が人にしっかりと向き合わないといけない分野なんで、非常に地道でかつ人間的な取り組みをしていかなければいけないと思っています。そういう意味で、是非、私としては多くの皆さんの協力をいただきながら進めていきたいと思ってます。

その一方で「子どもの自殺対策プロジェクト」もどこに力を一番入れるのかっていうことを検討していく中で、今、ハイリスクを抱えている子どもたちをしっかりサポートできるようなチームを作ろうということでやっています。先ほど皆さんに投げかけたように、色々と取り組まなきゃいけないことがあるけど、あれもこれもじゃなくてあれかこれかでしっかり力を入れる分野を定めて「共生社会」づくりに取り組んでいきたいなと思っています。長野県はSDGs未来都市ということで政府からも一番初めに選定してもらっているので、県民の皆さんと力を合わせてSDGsの目標を達成し、「誰一人取り残さない」社会の実現を全力で取り組んでいきたいと思っています。

 

中村:私たちとしても、先ずは入口が重要だと考えています。無関心の反対は関心があるということです。そして、関心があるということは社会や人に対して「思いやり」をもっているかどうかです。私たちは「思いやり」を持つことが、関心を高めること、関心を持つということに繋がるという発信をさせていただいております。長野市は国際都市で、多文化共生という話も出ましたが、私たちもその点も一つ重要な力を入れる部分として今年は運動を推進していますので、また、お時間ある際にはその運動についても見ていただければと思います。

知事からは、私たち長野青年会議所に期待することや企業・社会に期待することをお話しいただきましたが、最後に他に長野県の「共生社会」に関する方向性について一言お願いします。

 

阿部:今、長野県は「学びの県づくり」ということを重点政策として掲げています。新しい総合5カ年計画も「学びと自治の力で拓く新時代」と言っています。今、「思いやり」という話がありました。「共生社会」を創る際には、ハード面として施設整備や障害者の皆さんの歩きやすい町づくりというのも必要ですが、やはり「心」が重要です。それには子どもの頃から多様性を認め合える社会を実体験してもらうとか、色々な人間がいて世の中当たり前という体験をしてもらえるようにしていきたいですね。

長野県では「信州やまほいく」いわゆる「森のようちえん」という自然保育を、全国にリードして進めていて、これは個人の主体性を育むことになります。山や森の中で遊んでいると、私のような運動神経の悪い人とかも色々いて、みんなで支え合わないとやっていけません。「森のようちえん」の関係者と話をするといつもなるほどと思うことがあるのですけども、「あれしちゃいけない」とか「これが危ない」とかあまり教えないんですよ。今の教育は「あれしなさい」「これしなさい」とかやっていますけども、「森のようちえん」ではそのようにはあまり教えないとのことです。例えば、「明日、みんなでカレーライスを作ろうね」となったときに、私が子供の頃には、カレーライスを作るんだったら「スプーンを持ってきなさい」とか、「人参持ってきなさい」とか言われましたけど、そういうことをやらないんですよ。そうすると忘れてくる子どもがいるんですけど、でもその子どもはその翌年絶対忘れないんですよ。忘れてこないだけでなくて、「去年の僕と同じ子どももいるかもしれない」と思ってスプーンを3本持ってくるという風になるんですよ。

 

中村:なるほど。

 

阿部:それって「思いやりを持て」という教育でなくて、自ら気付かせるという主体性を尊重した教育になります。自分自身も失敗したことで他人を思いやる気持ちを持つことにつながっているわけですが、そういう教育が出来る県にしていきたいなと強く思います。長野県としては、「学びの県づくり」を進めていきたいので、長野青年会議所の皆さんには、是非、教育について色々と提案していただきたいです。

長野青年会議所の皆さんへの期待は先程、話させていただきましたが、敢えてもう一つ言うと、今って世代間の利害が異なるテーマが実はいっぱいあると思います。具体的には、今のシニア世代と青年会議所の世代の皆さんの利害って結構一緒じゃないと私は思っています。例えば、国の借金についても私の世代やその上の世代は借金を返す側にはならないと思いますが、若い世代の人たちはどう返すかということが重要な問題になると思います。

先日の国連気候行動サミット2019でグレタさんも訴えていましたが、気候変動の問題についても、現在のまま温室効果ガスの排出を続けていくと、20数年以内で限界を迎えてしまいます。今世紀の早い段階で「0にしよう」としないと気候変動を止められないという危機感を私は持っています。でも、シニア世代からすると「今のままでも自分が生きている間はなんとかいけそうだ」と考えると思います。ただ、皆さんのような若い方たちや子ども世代にとっては真剣に向き合わないといけない問題だと思います。他には、年金問題もあります。

右肩上がりで成長・発展している時代はみんなが同じような環境で同じように貧しかったので、また、みんなが同じように豊かさを求めていた時代でもあったので、あまりあの人とこの人で利害がくい違うことがなく、みんなで一緒にやっていこうね、ということで世の中うまくいっていたように思います。しかし、現在は、今話したとおり、同じ問題に対しても世代間でポジションが大分違ってきています。特にこれからAIやIoTの時代において、私以上の世代は、仕事の中でAIやIoTをフルに活かさなくても人生を終えられると思いますが、皆さんの世代は、新しい社会に向き合っていかないと仕事も人生も送っていけない時代になるのではないかと思います。そうすると若い人たちがしっかり考えて行動することがこれまでの何十年に比べて特に重要になります。そういう意味で青年会議所の果たす役割は、多分これまでの過去何十年に比べてすごく重くなっていると思いますので、そういう観点で活動いただければありがたいと思います。

中村:私たち青年会議所の今後の活動に期待を込めていただきありがとうございます。

本日対談させていただいた内容を踏まえて、私たち青年会議所も今後の長野県の取り組に対して協力させていただきたいと考えています。11月には公開例会ということで私たち長野青年会議所の運動の最大の発信の場として、すべてのファンクションにSDGsを紐付けて市民の方を招いて発信する機会があります。そんな11月公開例会では、「共生社会」についての発信もありますので、本日の対談の内容を含めてしっかりと発信したいと思います。11月公開例会については、長野県からも後援をいただいていますので重ねて御礼申し上げます。

最後になりますが、今後の県政の益々の御発展と阿部知事の御活躍、そして県職員皆様の御健勝を心より祈念申し上げまして本日の対談を締めくくらさせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

 

阿部:ありがとうございました。